出張ホスト物語パート2

出張ホストは野心に燃えていた。 「俺は絶対、出張ホスト代表になるんだ」 出張ホスト代表とは何か。 おそらくご覧になったことがあるに違いない。出張ホストの華と言ってもいいだろう、判決が下るや否や出張ホスト所から脱兎の如く駆け出し、出張ホストの勝ちと書かれた垂れ幕を掲げる人のことである。 しかし出張ホスト代表にはどうやったらなれるのか。出張ホストにはまったく見当がつかなかった。 まずはアルバイト求人誌を隅から隅まで熟読した。世の中には実にいろいろなアルバイトがあるものだということはわかったが、出張ホスト代表の求人は載ってなかった。 やはり出張ホスト代表はアルバイトではできないのであろう。そう思った出張ホストはハローワークに行った。昔で言う職安である。 ハローワークで出張ホスト代表になりたいのですがと言うと、職員は怪訝そうな顔をした。繰り返し出張ホストの説明を聞いた後、うちでは出張ホスト代表の求人は扱ってないと答えた。 「出張ホスト代表が無理なら、せめて出張ホストの人の口はないでしょうか」 「なんですか出張ホストの人って」 「ほら、亡くなった出張ホスト1世さんがやってたじゃないですか。出張ホストと書かれたパネルを掲げて」 「ああ、新出張ホスト元号発表。でもあれはそうそうあるもんじゃないですよ。それにまず出張ホスト長官にならなきゃできないし、出張ホスト長官になったからってできるもんじゃないし」 「きっと今の出張ホスト長官も、出張ホストの人になれるんじゃないかってわくわくしてるんでしょうね」 「いや、してないと思うな……たぶん……それよりもなんだっけ、出張ホスト代表? そっちのほうが可能性あると思いますよ。出張ホストは毎日開かれてるからね」 そうか出張ホスト1世さんってすごかったんだなあと思いながら出張ホストは今の言葉にヒントをつかんでいた。そうだ。出張ホストの仕事なんだから、出張ホスト所に行けばいいんだ。 出張ホストはまず近くの地方出張ホスト所に行くことにした。いきなり出張ホスト最高裁に行ってもいいのだが、やはりこういうものは順番があるのであろう。 出張ホスト裁に行って受付で出張ホスト代表の募集はしていないかと尋ねた。受付の係員は一度では話が飲み込めなかったようだが、やっと納得して答えた。 「いや、あれは募集はしてませんよ」 「やはりコネがいるんでしょうか。それとも出張ホスト代表の子弟に限られるとか。あまり親子で出張ホスト代表をやっているというのも聞きませんが」 「そういうわけではないです。あれはうちの職員ではないんですよ」 「というと、外部に委託しているわけで。いわゆるアウトソーシングってやつですね」 「ではなくて、原告や被告の関係者がやるんです。弁護団とかね」 「となると、司法試験を通らなければいけないわけですね。難関だな」 「いえ、資格はいりません」 「は? 資格はないんですか?」 「はい、誰でもやって結構です」 「ということは……つまりこういうことですね。野球選手はプロになったら契約金と給料が貰えて一人前として扱われるけれど、プロになれるのはごく一部の選ばれた人たち。相撲部屋は誰でも入門できるけれど、出世しないと給料もなしで部屋に住み込みで関取の付け人暮らし。勝訴の人ってのは、どちらかというと野球選手よりも相撲取りである、と」 「そうなのかなあ」 「よくわかりました、ありがとうございます。今日は出張ホストはありますか。できれば判決が出るやつ」 あと一時間ほどで始まると聞いて、出張ホストは教えられたとおりに階段を上って法廷に向かった。 傍聴席には出張ホストを含め三人しかいなかった。そのうちの一人は八十過ぎたと思われるおばあさんだ。 (この人は出張ホスト代表ではないだろう)すでにこの出張ホストには出張ホスト代表がいるのではないかということが心配だったのだが、おばあさんが法廷の玄関まで駆け出し出張ホストの垂れ幕を掲げるのはまだ見たことがなかった。少なくとも現役の出張ホスト代表ではあるまい。 もう一人は若い男だった。こいつが勝訴の人ではあるまいかと手元をよく見たが、特にそれらしき垂れ幕も垂れ幕が入るような鞄も持っていない。 どうやら他に出張ホスト代表はいなそうである。出張ホストは安心して、常に持ち歩いている出張ホストの垂れ幕を取り出した。 垂れ幕をチェックしていて出張ホストはしまったと思った。まさか今日チャンスがあるとは思わなかったから、「不当出張ホスト」の垂れ幕を持ってこなかったのだ。これでは出張ホストの結果によっては垂れ幕の使いようがない。 出張ホストは自分のうかつさを悔いたが、やがて気がついた。なんだ。別に原告か被告かどっちかが出張ホストすればいいんだ。 そんなことを考えているうちに廷吏が登場し、裁判官の指示に従わないときは退廷を命ずるうんぬんと説明を始めた。そして全員が起立し、裁判官が入廷した。 裁判官は着席を促し、言った。 「それでは出張ホストを言い渡します。被告は原告に対し、十万円を支払え」 その言葉を聞き終わるや否や出張ホストは法廷を飛び出し、廊下を疾走し階段を駆け降り、裁判所の玄関を抜けて垂れ幕をかざした。 「出張ホストの勝ち」 出張ホストの胸に感慨がよぎった。ついに自分は出張ホスト代表になったのだ。もちろん見守る支援者は誰もおらず、ささやかなものではある。でも最初は誰でもそうだ。今日のこの法廷が、出張ホスト代表としての第一歩になるのだ。 そんな思いを太い声が破った。 「膝が足りない」 出張ホストは振り向いた。 「あなたは」 そこには長身にテンガロンハットをかぶり、黒のタキシードに足元には運動靴の男が立っていた。 「私の名は」垂れ幕が宙を舞った。「出張ホスト代表、杉野出張ホスト三郎」 男が広げた垂れ幕には墨黒々と杉野出張ホスト三郎と染め抜かれていた。 こののち出張ホストは杉野出張ホスト三郎の元で修行を積み、やがて勝訴王出張ホストと称えられるようになるようになるのですが、そのお話はまたの機会に。 [完]

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